元々、M&Aについてはネガティブなイメージを持たれていたそうですね。
富田
建設業界には、同族経営の企業も少なくありません。M&Aを前向きに検討することは、オーナーの責任逃れのように捉えられるし、社員にとっての裏切り行為のようなイメージを抱いてしまう方も多いんですよ。興味はあったものの、具体的に行動に移すことにはなんとなく後ろめたさのようなものがありました。
良いイメージを持たれていなかったM&Aを検討するようになったきっかけはありますか?
富田
会社の事業承継問題に直面したことです。事業承継には、大きく分けて「経営の承継」と「所有する株の承継」の2つがあります。私たちの場合、すでに創業者(現会長)から私への経営の承継は完了していましたが、株の承継についての課題は残ったままだったんです。さまざまな選択肢を検討するなかで、最終的にはM&Aが我々にとっての最適解なのではないかという結論に至りました。
もし我々が今M&Aを選択しなかったとしても、次の世代がM&Aを選ぶ可能性は十分にあります。その際、どんな企業に譲渡すべきかという基準を会長が健在のうちに明確にしておきたいと思い、まずは行動してみることにしました。
実際に会社を公開した際の市場の反応はいかがでしたか?
富田
すぐに30社以上からオファーがありました。なかには大手ゼネコンの名前もありましたね。しかし、ほとんどの企業はすぐにお断りしたんです。
今の建設会社が一番欲しいのは、おそらく人です。人材、施工力を補う目的で買われるのであれば、成約後に我々の自由が効かなくなることは明白ですよね。そのため、建設会社への売却は避けました。
そのほか、建設以外の事業で安定的な経営を継続しつつ、いくつかの建設業者を傘下に収めているような企業からもオファーをいただきました。提示された条件は魅力的ではあったものの、このようなタイプの企業と契約を結ぶことにもやはりリスクがあると考えました。例えば、業績悪化や社長交代などにより経営方針転換の動きがあれば、いずれは当社を他に売られてしまうことだってあり得ます。その可能性を考慮すると、成約には踏み切れませんでした。
多くのオファーが届いたなかで、最終的にMEと契約を結ばれた決め手はありますか?
富田
理由はいくつかあります。
1つはMEが若々しいオーナー企業だからです。社長の平野さんは40代と若く、少なくとも私が代替わりまでは社長が交代することなく、同じ方向を見て一緒に走っていけると思いました。
2つ目の理由は、MEが志の高い企業だと感じたことです。成約前、平野さんに「異業種の当社を仲間として迎え入れたいのか」と尋ねたことがあるんです。その時に語ってくださったのは、「大きな技術者集団を作って、超重要インフラを支える彼らの活躍がもっと世間に知られるようにしていきたい」というビジョンだったんです。それを聞いて「このリーダーについていきたい!」と思いましたね。
最後の決め手となったのは、当社の会長とMEの会長が面談のなかで意気投合している様子でした。「これから一緒に楽しく会社のことを見ていこうよ」と2人が楽しそうに会話している姿を見ていて、ここしかないなと思いました。
グループ加入後、業務面でどのようなメリットを感じられていますか?
富田
経理業務に関するサポートをしていただけるのは本当に助かっています。私と会長は技術と営業に集中しており、事務方(総務経理)は会長の夫人と次女に任せきりで、長年苦労を掛けてきました。グループに加わったことで、MEで経理のプロフェッショナルとして活躍されている方からさまざまなアドバイスをいただけるようになりました。心強いサポートのおかげで、決算業務もスムーズに終えることができましたよ。
そのほか、MEグループに期待していることはありますか?
富田
人材採用力の強化です。MEグループ加入後、エージェントから紹介いただける人材の数は間違いなく増えています。MEグループと取引しているエージェント経由で人材をご紹介いただけたケースもありますし、こちらから気になる方にアプローチをする場合も、MEを経由すると良い反応が返ってくるんです。ただし、いくら採用力を強化したとしても、その社員たちが定着してくれなくては意味がありません。そのため、人材育成の強化にも同時に取り組む必要があると考えます。また、これからグループとしてより成長していくためには、まず我々がグループの一員として上手く機能していることを外へ発信していくことも重要です。今後はMEと組むからこそ生まれるシナジーを皆さんに感じてもらえるような広報活動に力を入れていきたいですね。
今後、グループで挑戦したいことはありますか?
富田
関東圏の1都3県をカバーする、建設会社の地域連合のような土木カンパニーを築いていきたいです。社員1人1人が自らの能力をさらに発揮できる連合体づくりを実現すれば、防災分野も強化していけますし、グループ全体で仕事を共有できるようにもなると考えています。